名古屋高等裁判所 平成11年(ネ)812号 判決
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人に対し、原判決添付別紙第二物件目録記載の建物(以下「本件建物」という)を収去して、原判決別紙第一物件目録記載の土地(以下「本件土地」という)を明渡し、平成九年六月一六日から明渡し済まで一か月六七万八五〇〇円の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
4 仮執行宣言
二 被控訴人
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求の原因
1 訴外今井通雄(以下「訴外通雄」という)は、平成六年六月二八日、訴外更生会社株式会社テレホンメガネ(以下「訴外会社」という)との間で、公正証書により、同訴外人所有の本件土地を、目的は訴外会社の事業用建物所有、賃貸期間は平成六年七月一日から一五年間、賃料は一か月六七万八五〇〇円、毎月末日までに翌月分の支払いとの約定で、本件土地の賃貸借契約(以下「本件契約」という)を締結し、本件土地を訴外会社に引き渡した。
2 本件契約には、訴外会社が、銀行取引停止処分を受け、又は破産、和議、会社整理、会社更生手続の申立を受け、若しくはこれらの申立をしたときは、賃貸人は何ら催告なしに本件契約を解除することができる旨の特約(以下「特約条項」という)がある(第一〇条五項)。
3 訴外会社は、平成六年九月二日、本件土地上に本件建物を建築所有し、メガネ販売業を始めた。
4 訴外通雄は平成九年二月二五日死亡し、控訴人が相続によりその所有権を単独取得し、本件契約の賃貸人の地位を承継した。
5 訴外会社は、平成九年三月一九日、前橋地方裁判所に対し、会社更生の申立をした(同裁判所平成九年(ミ)第一号)。
6 そこで、控訴人は、特約条項に基づき、平成九年六月一三日、内容証明郵便をもって、本件契約を解除する旨の意思表示をし、右書面は同月一五日訴外会社に到達した。
7 訴外会社は、平成九年一一月二一日午後五時、更生手続開始決定を受け、被控訴人丸山和貴及び同澤田信三が更生管財人に選任された。
8 よって、控訴人は、被控訴人に対し、本件契約の解除による原状回復請求権に基づいて、本件建物の収去並びに本件土地の明渡しを求め、解除の翌日である平成九年六月一六日から右明渡し済まで一か月六七万八五〇〇円の割合による賃料相当の損害金の支払いを求める。
二 請求の原因に対する認否
1 請求の原因1項の事実(通雄と訴外会社との本件契約の締結)、同2項の事実(特約条項)、同3項の事実(本件建物の建築所有)、同5項の事実(訴外会社による会社更生の申立)、同6項の事実(控訴人による本件契約解除)及び同7項の事実(更生手続開始決定)は認める。
2 同4項の事実(控訴人の賃貸人の地位承継)は知らない。
三 抗弁
1 会社更生法違反による本件特約の無効
会社更生法一〇三条一項によれば、更生管財人は、賃貸借契約等の双務契約については、解約権行使、契約継続の請求のいずれでも選択できるものと規定されている。同法の精神は、賃借権が財産的価値を有することから、会社再建を図る更生会社において、契約継続の有利、不利を判断した上での選択権を認めたものである。これに対して、相手方である賃貸人には特別の解除権は認められていない。従って特約条項は右法条に反し、無効というべきである。
2 公序良俗違反による無効
控訴人が本件契約の解除権を取得するには、会社更生手続開始決定の前に解除権の行使の要件を具備する必要がある。本件は右決定前にはその要件が存在せず、右決定の前提たる会社更生手続開始の申立それ自体を解除事由としている。これは訴外会社の窮状に乗じて賃貸人に一方的に有利に定めた特約であり、民法九〇条の公序良俗に違反するもので無効である。
四 抗弁に対する認否
抗弁はすべて争う。
第三当裁判所の判断
一 請求の原因1ないし3項、5ないし7項の事実は当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、同4項の事実が認められる。
二 そこで、抗弁1(特約条項の効力)について検討する。会社更生法一〇三条一項は、「双務契約について会社及びその相手方が更生手続開始当時まだともにその履行を完了しないときは、管財人は、契約を解除し、又は会社の債務を履行して相手方の債務の履行を請求することができる。」と定める。同条の趣旨は、更生手続開始当時既に有効に成立し、更生会社に対して拘束力を有する双務契約で当事者双方ともに未だその履行を完了していないものにつき、更生会社の相手方の利益を考慮し衡平を保持しつつ、企業再建の基盤となる会社財産の毀損・散逸を極力防止し、再建の目的の達成と更生手続の円滑な進行を図るため、その処理方法を定めたものと解される。特約条項を仮に有効と解すると、賃貸人は常に更生管財人に対し解除権を行使できることになり、これでは企業再建の物的基盤を危うくすることになり、又債権者、株主、その他の利害関係人の利害を調整しつつ窮境にある株式会社の事業の維持更生を図ろうとする会社更生法一〇三条の趣旨、目的を没却してしまうことになる。よって、特約条項中少なくとも会社更生申立に関する部分は無効と解するのが相当である。
してみると、被控訴人の抗弁1は理由があるから、抗弁2について判断するまでもなく、控訴人の本件契約を解除した意思表示は無効というべきである。
三 結論
以上によれば、控訴人の本件請求を棄却した原判決は結論において相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき、民訴法六七条一項、六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 笹本淳子 裁判官 鏑木重明 裁判官 戸田久)